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シンプリストの暮らしのあれこれ

スロウハイツの神様 伏線一覧

先日『スロウハイツの神様』を読みました。

上巻はかなりスローペースでしたが、下巻でたくさんの伏線がきれいに回収されていて気持ち良かったです!


読み返したので、伏線についてまとめたいと思います。



以下、ネタバレです!








狩野=『ダークウェル』原作者・幹永舞

第12章で狩野が幹永舞だということが明かされます。

「canとableね。今度なんか奢れよな、この高額納税者。ほんっと、お前には気持ちいいぐらいに騙されたよ」【下 352】

少しわかりづらい種明かしでした。

幹永舞(みきながまい)→”カンエイブ【上 47】”正義が誤って読んでいましたね→canとable可能狩野ということですね。


・上巻冒頭、待ち合わせより一時間早く現れた環に明らかに動揺する狩野。「締め切りの近い仕事」、狩野が仕事をしている描写はこの後もないので違和感を放っていましたよね。

締め切りの近い仕事の道具を広げていた狩野は、大急ぎでそれをしまう。電源を落とす。・・・やばいな、計算違いだ。手元を動かしながら、素早く声と表情を整える。【上 20】


・忙しい黒木さんなのに、事情に詳しく親しい狩野

そもそも黒木さんは、この位忙しい人です。

最近では忙しくてなかなか家に帰ってこないか、帰ってきても死んだように寝ているか、そのどちらかだ。【上 61】


公輝すら知らないことを知っているのは不自然といえば不自然ですよね。

狩野「あと、黒木さんって今確か中国でしょ?担当してる作家さんの取材の関係で、二週間くらい行くって聞いてるけど」 公輝「ええ?」 公輝が大きく声を上げ、その態度に狩野は自分が失敗したことを知った。どうやら、黒木は公輝には何も告げていかなかったようだ。 【下 58】

その他にも黒木さんとのエピソードがちらほら出てきます。

今では随分気安い間柄になったけれど、それでも彼はやはり食えない人だ。【上 185】


「狩野は公輝と違って、どれだけ売れても今の金銭感覚と常識を維持した方がいいな。君はそういうタイプだ」【上 187】

”売れても”は仮定の話だと思っていたんですが、実際に売れていたとは…!


・スーや正義と違って働いている描写がないのに結構金持ちな狩野

会計は、奢りたがる公輝を強引に無視して割り勘にした。実を言うと、狩野は結構金持ちだ。【下 68】

実家が裕福なのかな~とぼんやり思っていましたが、ちゃんと理由がありましたね。


狩野と桃花

 桃花と狩野は、付き合い出して、もう二年以上になる。(中略)  環がいつもしている『マディ』とそっくりの指輪だって、二人で一緒に伊勢丹で買ったものだ。【下 183-184】

個人的にかなり驚きました。全く気が付いていなかったので…


・環の指輪について詳しい狩野。

去り行く彼女の右手の薬指に、赤い石の嵌まった指輪が見えた。公輝の『レディ・マディ』に登場するのとよく似たデザインの指輪。けれどそれは、狩野との初対面の時にしていたレプリカのキャラクターグッズではなく、きちんとしたブランドのものだ。彼女の妹桃花が、数年前の環の誕生日にプレゼントを探していて、偶然見つけた贈り物。【上 285】

環の『マディ』と似ている指輪を羨ましがる莉々亜に、黙っている狩野。

本当は、新宿の伊勢丹に入っているあの店だと説明できるけど、それを教えるのには抵抗があった。そうするのは何だか環にも桃花にも申し訳が立たない。【上 326】


まさか桃花と一緒に買っていたとは。笑


・恋人について話す正義と狩野

この話題をあまり深刻にするのは嫌だな。狩野は咄嗟に、話題の切り口をすりかえる。【上 307】

ただ単に恋人がいないことを突っ込まれるのが嫌なんだと思いましたが、違いましたね。


結婚する前は、やり手の保険のセールスレディだったらしい。ただしこれは、環からではなく、彼女の妹である桃花から聞いた。【上 322】

ここで桃花と近しい関係だということが分かりますね。ここで気づくべきでした。


莉々亜=鼓動チカラ⇒環の代筆

第12章で莉々亜が鼓動チカラということが発覚します。 個人的にはこれは予想通りでした。公輝の部屋に出入りしている人物でしたからね。


・莉々亜が公輝の部屋に入り浸っている描写はこちら。

この家に来てからというもの、莉々亜はほとんど毎日のように公輝の部屋に通っていた。彼の仕事の邪魔にならないようにと気は遣っているのだろうけど、よく遊んでいる。【上 360】


・莉々亜の様子の変化

莉々亜の環に対する発言で、莉々亜の様子がいつもと違うことを感じた狩野。

冷たく、抑揚のない声だった。(中略) 「莉々亜ちゃんなら、もっとうまく僕にそれを言うはずでしょ?」【下 257】


今までは公輝の部屋に入り浸っていた莉々亜が変わります。

最近は、一人で部屋にこもることが増えた。【下 263】


・莉々亜の様子の変化と時を同じくして、鼓動チカラの『ハロー・レイチェル』と環の様子にも変化が表れます。

確かにここ数ヵ月は様子がちょっと違うみたい。『マディ』とは相変わらず確かに似てるけど、展開をあそこまで先取りしてなぞったりはしなくなってきてる。パクリっていうより、今はリスペクトとかオマージュっていうか……。【下 261-262】


近頃の彼女の仕事の入れ方は、尋常ではなかった。 今、いったい何本の仕事を並行して抱えてこなしているのか。それが怖くて聞けないぐらいだ。【下 264】


第11章での黒木と環の会話が決定打でした。

「ーー残りの原稿は、あと一ヵ月の内にもらえる。そういう約束でいいんだな?」 「私を誰だと思ってるの。きちんと仕上げて持ってくる。損はさせないわよ。きちんと面白いものを仕上げる」【下 291】


そして第12章で環が『ハロー・レイチェル』を代筆していることが明かされます。

「私、絵も小説も書けないの。セリフとセリフにまだるっこしい感情を自分で書き込むなんて、絶対無理」【上 209】


と言っていた環。苦労しながらもこれまでなんとか書いてきたなんて…!!た、たまきちゃん…いじらしい!!公輝への愛、強しですね。(愛は執着!)


各務(かがみ)環 

最終章で明かされた環の前の苗字。

『加々美さんさ』と、電話で伝えた第一声に『え? 何?』ととぼけたような素の声が返ってきたのには驚いた。(中略) 『あ、ごめんごめん。カガミさん――、莉々亜ちゃんね。一瞬、混乱して』と苦笑する【上 277】


苗字を聞いた時は、何事よって思ったけど」【上 283】

突如現れた自分の旧姓と同じ苗字の女の子。環からしてみれば、そりゃあ何事かと思いますよね…!


・狩野に提案する環

「本人の許可が下りればだけど、できるだけ莉々亜ちゃんのことは苗字じゃなくて名前で呼ぼう。その方が、早く他人行儀が抜けて打ち解けられると思う」【上 284】

環の巧妙な提案は気が付くのが難しい…


プラズマテレビ

黒木が狩野に語った公輝のエピソード。

「何年前だったか、何かの打ち合わせで新宿に出掛けた帰り、ふらっとヨドバシカメラに寄りたがってね。ついていったら、その場でプラズマテレビを衝動買いするんだ。あれは、真面目に働いてるこっちが嫌になったなぁ。どれがいいのかなぁって呟きながら、最新型をお買い上げ。千代田センセイ、それはちょっとお戯れが過ぎるかな、と。その時期の公輝の家には、大型画面のすごくいいフラットテレビがあったから、本当に悔しくて嫌になったよ」(中略) 「かと思えば、次に家に行ってみたら、プラズマテレビの姿がどこにもない。所在を尋ねたら、よく見たら接続が面倒で、だから人にやってしまったというんだ。」【上 186-187】

公輝の変わりっぷりを物語るエピソードかと思いきや!こちらは駅の待合に突如現れたテレビの伏線でしたね。最終章で語られています。


『ハイツ・オブ・オズ』のケーキ

第11章で語られたクリスマスケーキのエピソード。真実が最終章で明かされます。

・スーが公輝を「環が彼氏と別れたお祝いの会」に誘う場面

「買い物も済んだし、大丈夫だよ。『ハイツ・オブ・オズ』のチョコレートケーキ買ってきたから、みんなで食べよう」 「ああ」  無表情を少し崩しただけの、微妙な笑顔を浮かべる。 「懐かしい」【上 52-53】

公輝の微妙な笑顔、懐かしいという言葉には、想像できない背景があったとは…!


黒木が語っていた一見めちゃくちゃに思える公輝のエピソードにもきちんとした理由がありました。

「公輝は、上京した頃は本当にこればっかり食べてたな。最初に差し入れてやった時は手をつけなかったくせに、後から自分の金で通いつめてた」・・・ 「お前は本当に無茶苦茶で、いつだったか、三食これを食べて過ごしてたことがあっただろう?いくら高級だといっても、本当に金の使い方の効率が悪い。何を考えてるんだって、本気でおかしくなったのかと心配した」

ディスプレイとして空箱を陳列するためにたくさん卸していたのを食べていたからだったんですね。


環が口を挟んだ。 「そういえば『オズ』の直営店って確かに東京だけど、何年か前にコンビニに卸されてたことがあったよね?その時は田舎でだって買えた。結局一回限りでやめちゃったみたいだけど、またやればいいのに」【上 288】


「私、あそこのパティシエに知り合いがいるんです。だからちょっと詳しいんですけど、あそこのケーキは絶対に直営店以外では売りませんよ。そういう経営方針なんです。どんなに頼まれてもデパートと提携したりしない。コンビニなんてもってのほかです」【上 328】

対立する環と莉々亜の証言。どちらも正解だったとは!


・狩野が公輝に莉々亜は彼女にどうかと勧める場面。

莉々亜のコスプレの話題になり、

コスプレしたまま町を歩いてて、警察から職質を受けたことがあります。」【下 62】

と言っていました。狩野は公輝が話題をそらすための作り話だろうとふんでいましたが、事実でしたね。


ところで、環はスロウハイツの入居者面接に来た男の子についてこう答えています。

「気前のいいところが、私は嫌だったの。(中略) いくら相手を喜ばせたくても、バランスを考えない贈り物をしちゃう個性はちょっとね」【上 62-64】


プラズマテレビ、図書館への寄贈、そしてハイツ・オブ・オズのケーキ… 公輝のバランスを考えない贈り物の数々を思うと、クスッとなりますね。


公輝の「お久しぶりです」

・正義と公輝の会話

「愛は、イコール執着だよ。その相手にきちんと執着することだ」(中略) 「それは執着されない環の負け惜しみだよ。ストーカーになるくらい誰かに執着してみてから言えよ。人間はそれぐらい相手を欲しくなるものなの。本当は。なぁ、コウちゃん?」(中略) 彼が驚いたように姿勢を正し、おそるおそるこっちを振り向く。(中略) 「何の話ですか?」 「女の子をストーカーしたことぐらいあるよなって話。」  随分端折った説明を正義がすると、彼は大真面目な表情で考えたあとで、「引かれるかもしれないけど、ないこともないです」と答えた。冗談なのか、本気なのか、そのどちらかが全くわからない声だった。【上 58-60】


最終章でコーキの天使ちゃんが環だということ、

そして公輝が見守っていたことも明かされました。


その際に、読者全員が思い返すのはこのシーン!

環が一歩前に出た、その瞬間だった。公輝が一度じっと正面から環の顔を見つめたかと思うと、その視線をそっけなく逸らし、逃げるように自分のつま先を見た。そして言った。 「ああ。ーーお久しぶりです。」【上 143】


 握手のために右手を差し出すと、公輝は長く間を置いて躊躇ってから、ゆっくりと手を伸ばしてきた。大きな腕が壊れ物を包むように、両手で環の手のひらを包む。握手というのは片手と片手なのに、彼は両方の手で環の手を取った。触ったか触らないか、表面を撫でるような体温を微かに残して、すぐにそれが離れる。そこまで恐縮する必要などないのに、彼の手は震えていた。 「……すいません」  手を解く瞬間、泣き出しそうな声で彼がまた言うのが聞こえた。【上 145】


このシーンへの伏線はこちら。

芹沢「あの人、恐ろしく頭がいいでしょう?人の顔や名前を絶対に忘れない」【下 46】


環とは反対の供述、環は「自分が好みのタイプじゃなかったから」【上 175】と思い込んでしまっていますが、そうじゃないのよ環ちゃん!!

公輝の伏線は、変わり者の公輝ならありうると思わせるものばかりでしたが、実は公輝の行動や言動には全て理由があったんですね。

そして真相は公輝のみぞ知る…でも公輝と環はお互いを愛しているから、明かされないままでも良いのかもしれませんね。 二人の幸せを祈ります。


以上、スロウハイツの神様の伏線リストでした。